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第五話 先輩

last update publish date: 2026-07-14 19:47:03

「とまあ、散々でした……」

 夕食の席で、大きなため息をつくあくあ。今日のメニューは、サワラの塩焼き定食。

「ふふ。エディアカラ生物を盛り上げようとしてくれて、ありがとうね。らいあも、お礼言おう」

「うむ。ありがとう」

「その点、まりんは初仕事上々だったんだろ? うらやましいなー。案内課、行きたかったなー」

 シジミの味噌汁を飲む、あくあ。

「そんな。たまたま、暇な水槽を任されただけだよー」

 とはいえ、悪い気はせず、照れくさそうにもじもじする。

「エディアカラ企画、なんかいいネタないですかねー」

 サワラをついばむ、あくあ。

「ふむ。混泳が楽というのはあるが」

「そうなんですか?」

「エディアカラ紀は、エデンとも呼ばれていてな。まったく、弱肉強食のない時代だったんだ」

 「へー」と感心する、あくあとまりん。

「エディアカラ生物大混泳……うーん、安直すぎるか」

 腕組みして、考え込むあくあ。

「あ、エディアカラとカンブリア生物の混泳ってどうでしょうね?」

 三人が、まりんを見る。

「エディアカラの生物って、大人しいんですよね? ハルキゲニアみたいな、無害なカンブリア生物と混泳させたらどうかなーって」

「賛成できないな」

 らいあが、ぴしゃりと言い放つ。

「エディアカラとカンブリアでは、水質、水温が違いすぎる。管理に問題が生じる」

「名案だと、思ったんですけどねえ」

 人差し指をつつき合わせる、まりん。

「企画って、難しいですねえ……。あくあちゃんは、ほんと大変な仕事をしてるんだなあ」

「わかってくれるか、友よ」

 ぽんぽんと、まりんの肩を叩くあくあ。

 その後も、食事を進めながら四人でアイデアを出し合うも、決定打となるものは出なかった。

 ◆ ◆ ◆

(エディアカラ……カンブリア……エディアカラ……カンブリア……)

 出社前から、頭の中がぐるぐると、企画のことでいっぱいなあくあ。

(あ~~~! だめだ! 何も出てこない!)

 頭を抱えると、不意に、デスクに缶コーヒーが置かれる。

「大変そうね。あまり根つめちゃだめよ? それでも一服して、落ち着こう?」

 先輩社員が、優しく微笑みかける。

「ありがとうございます」

「私もねー。ボツばかりで。でも、野球でも三割ヒット出せたら、名選手なんだからーって思うことにしてるの」

 その話を聞き、ふと思う。

「あの、もしかして案内課の奈良先輩と、織田先輩のご同期だったりします?」

「あら、よくわかったわね」

「はは、まあ……」

 ボツばかりで悩んでると聞いたからとは、言えなかった。

「逆に、春木さんは、どうしてその二人のことを?」

「奈良先輩が、同期の友人の指導員で、その関係でご縁ができまして」

「へー。あ、私語もほどほどにしなきゃ。なんでも相談してね」

「はい!」

 思案に戻るあくあ。

(三葉虫展……。地味だな。マニアックすぎる。それにしても、なんで三葉虫って絶滅しちゃったんだろ。絶滅……。絶滅展?)

 科学の進歩で、エディアカラ生物も、カンブリア生物も、その絶滅理由がはっきりしている。

 それぞれの絶滅について説明する、絶滅展はどうだろう?

(これだ!)

 デバイスに、高速で企画を書き上げていく。

 ◆ ◆ ◆

「ふむ。面白いな」

 課長、初の好感触!

「よし、これでいってみよう。みんな、デバイスに春木の企画を送るぞ」

 「おお~」とか、「その発想はなかった」などの声が上がる。

 奏・らいあの同期の先輩が、あくあにサムズアップする。

 ちょっと、照れくさい。曇天に、一条の光が差したような、晴れやかな気分だった。

 ◆ ◆ ◆

「おめでとう! 三日目で採用は、持ってる・・・・よ、春木さん!」

 定時になると、先程の先輩が、あくあに語りかけてきた。

「先輩! ありがとうございます!」

「私も、負けてられないなー。頑張るぞー!」

 うーんと伸びをして、企画室を出ていく彼女。

「あ、待ってください! 一緒に帰りましょう!」

 慌ててあとを追いかける、あくあであった。

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